ヨーロッパの冤罪
ヨーロッパ犯罪学会に行ってきた
ヨーロッパ犯罪学会で冤罪について報告してきました。
報告に関する体験記はIPJのコラムにも書きましたので参照ください。
私からは次のようなことを報告しました。
日本で注目されてきた4つの証拠(自白、共犯者供述、目撃供述、科学的証拠)の統計や取調べ依存型捜査構造になっていること
心理学(確証バイアス、ヒューリスティックス、認知的一貫性、認知的不協和等)を用いた冤罪原因分析の重要性
冤罪を再生産する社会構造の問題点
冤罪を防ぐためには「冤罪を学び、冤罪に学ぶこと」が必要であること
詳しくは『冤罪学』に書きましたので、ぜひご参照ください(『冤罪学』の出版について)。
四大冤罪証拠や心理学を用いた冤罪原因分析の重要性は世界共通の事柄であり、日本の冤罪の再生産構造はヨーロッパ諸国の誤判冤罪原因検証機関から学びたい点で、そして冤罪から学ぶということについてはグローバル・スタンダードになって欲しいという願いがあるため、これらを世界に報告するということは非常に貴重な機会でした。
ヨーロッパの冤罪データベース・プロジェクト
いくつか他のグループの報告も見て回りました。
一番気になっていたのは「ヨーロッパの冤罪」という報告。
まず、ヨーロッパの冤罪事件についてのデータベースを作って公開しようという試みがあるそうです。
残念ながら、なぜかHPからは見ることができないのですが、報告を聞く限り色々頑張って情報を集めているそうです。
虚偽自白が28%、目撃供述が16%など冤罪原因の統計もとっているようです。
取調べについて日本よりも規制があり手続保障にも厚いヨーロッパにおいても虚偽自白が問題になっているのだと驚きました。
おそらく、制度面でどんなに手当てをしても、人間である以上誤った見込みに陥って自白を強要したり、取調べという特異な環境下での心境変化から虚偽自白に陥ってしまったりすること自体を防ぐことはできないのでしょう。これはそういう問題なのだと認識を改める機会になりました。
一方で、虚偽自白に関しては「自分に不利益になる嘘をつくことは不自然不合理」という理由から証拠価値を高く見積もって誤信してしまう事例がこれまでも多数存在したところですが、そのような行為が世界中で生じているということ自体がこの論理への反論になるとも思いました。
なお、もともとアメリカに冤罪のデータベース”The National Registry of Exonerations“があり、それがモチーフになっているとのこと。
日本にも雪冤プロジェクトというサイトがあるのですが、更新が止まってしまっています。
過去の冤罪から学ぶためには冤罪事件に関する知識の集約が必要不可欠ですから、冤罪事件のデータベース化は非常に重要なことだと思います。日本でもいつかデータベース化をしたいところです。
ヨーロッパの冤罪原因
また、「ヨーロッパの冤罪」のセクションでは、冤罪の原因に関して目撃供述や指紋鑑定などの証拠の問題と、捜査官や裁判官のバイアスの問題があると2分して論じられていました。
冤罪原因は大きく分けると証拠の問題と関わる人々の心理的問題があるという観点は『冤罪学』でも同様の分析手法を取っており、他国の冤罪研究でも同じなのだなと思いました。
そのうえで、バイアスの問題としては、私の上記報告と同様に確証バイアスが取り上げられ、トンネル・ヴィジョンの危険性について論じられていました。
日本でも冤罪とバイアスに関する研究例が出てきているところです(笹倉香奈「冤罪とバイアス」)。
そのうえで、何人かの報告者が説明していたのは、刑事手続の過程がブラックボックスになっていて検証が難しいという問題でした。
これらの冤罪に関する報告を聞いていると、冤罪研究に関する世界的な傾向や問題点は日本と大きくは変わらないように思いました。
よく国によって法制度は違うため他国の状況をそのまま日本に当てはめることはできないと言われることがありますが、冤罪に関しては世界共通の原因や問題点があるということを感じました。
そのため、海外の知見は日本に役立つものも多いですし、逆もまた然りで、日本の冤罪に関する知見を海外に発信すれば世界中で役立てられるのではないかと思いました。
「冤罪」の研究
「ヨーロッパの冤罪」セクションで私が新鮮に感じたのは、個別事例を離れた「冤罪」そのものを研究しているということでした。
冤罪は非常に悲惨な出来事ですから個別の冤罪事件の話は継承されるべきものであり、私もそのような思いを胸に冤罪研究に取り組んでいます。
ただ、冤罪事件は色々な種類がありますし、特定の地域や時代だけの問題ではありません。
将来の冤罪を防ぐことを考えると、個別事例を横断的に分析し、個別事例から離れた「冤罪」という事象そのもの(なぜ人間は犯人を間違えてしまうのか)についても研究しなければならないと思っております。
そのような研究や議論に直に触れることができ、非常に勉強になりました。
ぜひこの経験を日本の冤罪研究に生かしていきたいと思います。
Comments