取調べ録画媒体をめぐる国の異常な対応ープレサンス元社長冤罪事件国賠訴訟
「ふざけないでいただきたい」ー取調べにおける元大阪地検特捜部検事の田渕大輔検事の暴言ではないが、思わず悪態の一つもつきたくなる。「ふざけんな」「命かけてるんだ、こっちは」「検察なめんなよ」などという田渕検事の暴言に対してではない。山岸忍さんが提起した国賠訴訟における文書提出命令に対する国の態度に対してである。原告側は、プレサンス元社長冤罪事件における検察官の訴追行為の違法性を明らかにするためには、田渕検察官らによる取調べの状況を録音・録画した記録媒体の取調べが必要であるとして、国に対し、記録媒体の文書提出命令を申し立てた。これに対し、裁判所は、国に対し、文書提出命令を待つまでもなく、任意に提出することができないか、と検討を促した。国もさすがに記録媒体の提出を拒みきれないと判断したのであろう。裁判所と原告に対し、任意提出を検討すると伝えてきたのである。
ところがである。その検討の結果と称して、国は「ふざけないでいただきたい」と言わざるを得ない「条件」を提示してきたのである。その条件とは、記録媒体について、「原告及びその代理人が、①当事者以外の者による閲覧・謄写を制限すること、②証拠調べを弁論準備手続で実施するか、口頭弁論で行う場合には、裁判官及び当事者など訴訟関係人のみが視聴できる方法によること、③原告及びその代理人がこれらの記録媒体(複製物を含む。)を報道機関等の第三者に提供したり、閲覧させたり、複製させるなどしないこと、という条件をいずれも承諾した場合に限る」(以下、3条件)というのである。つまり、「取調べの録音・録画が、市民の目に一切触れさせないこと」が条件だというのである。一体、国は何様のつもりなのであろうか。よりにもよって、裁判所によって陵虐と認定された違法取調べ=権力犯罪を隠蔽するための条件を、冤罪被害者である山岸さんに承諾せよ、というのである。
つまるところ、国の姿勢は、違法取調べの実際を国民・市民には絶対に見せない、というものである。権力は、国民・市民の監視の目が届いてこそ、初めてその健全性が保ちうる。これに対し、国のしようとしているのは権力犯罪の隠蔽である。万一、原告がそのような承諾をすれば、権力犯罪の隠蔽に手を貸すことになってしまう。このようなふざけた条件を提示してきた国に対し、マスメディアは速やかに強い抗議の声をあげるべきであろう。
ちなみに、3条件を提示してきた国の言い分は、関係者のプライバシーと将来の捜査への支障である。しかし、原告側は、関係者のプライバシーに配慮することを明言している。残る理由は、将来の捜査への支障のみである。しかし、違法取調べを隠蔽することが、どうして将来の捜査に資することになるのであろうか。全く逆であろう。違法取調べを市民の目にさらし、その反省に立って、再発防止を誓ってこそ、市民は安心して捜査にも協力できる。違法取調べをひたすら隠蔽しようとする捜査機関に対してこそ、市民は不信の目を向け、捜査協力に消極的にならざるを得ない。むしろ、文書提出命令を待つまでもなく、国こそが、違法取調べを自ら明らかにすることこそが、将来の捜査に資するのである。
ウィシュマさんの事件でも、国側は入管当局の非人道的な対応の録画を決して公開しようとせず、逆に録画を公開した原告側を非難した。あまりに稚拙な対応である。今回も国の対応は、全く同じである。今回の記録媒体の提出への徹底的な抵抗は、一体どのようなレベルで議論され、決定されているのであろうか。少なくとも検察庁の最高幹部の意向が働いているのであろう。監視されない権力は、必ず腐敗する。歴史が教える当然の事理を、彼らはどのように理解しているのであろうか。今一度繰り返しておきたい。「ふざけないでいただきたい」
文書提出命令に対する判断は、2023年9月19日に大阪地方裁判所によって示される。 関テレも取り上げてくれました。
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